イクボク

育児について語る時に僕の語ること

脱・イクメン後進国!ドイツの成功事例にみる日本の現状と課題

海外における父親の育休事情について調べていたところ、日本はドイツに学ぶと良いのでは?と思ったので簡単にまとめておきたいと思います。

 

父親による育休取得

厚生労働省の発表によると、日本国内における父親の育休取得率は1.89%(2012年度)で、先進諸国の中でも極めて低い水準となっています。

 

なぜドイツなのか?

ドイツでは、「育児は母親の仕事」とみなす価値観が根強く、父親の育休取得率は3.3%(2006年)と日本並みの低水準でした。しかし、政府による家族政策の改革を経て、男性の育休取得率は29.3%(2012年)まで改善しました。

 

イクメン育成のモデルケースとしては、パパ・クオータ発祥の地であるノルウェーなど北欧諸国が有名ですが、短期間で大きな成果を上げたドイツにこそ学ぶべきところが多いのではないかと感じました。

 

ドイツ成功の理由は?

ドイツの成功の背景には以下の4つの要因があったと考えられます。

 

  • 所得保障の強化
  • 育休需要の顕在化
  • 社会通念の変化
  • 受入体制の確立

 

ひとつずつみていきましょう。

 

所得保障の強化

ドイツでは、男女の賃金格差が大きく、所得減少への不安が父親の育休取得の障害となっていました。そこで2007年1月、当時の政権(メルケル首相)は育児休業中の新たな所得保障制度「両親手当」を導入。新制度では、育休取得によって所得が減少する人に対して、子どもが1歳になるまでの12カ月間(両親ともに育休を取得する場合には2カ月の延長が可能)、月額1,800ユーロの範囲内で所得の67%を保障しました。この結果、父親の育休取得にともなう経済的負担は大幅に軽減されたのです。

 

育休需要の顕在化

ドイツ人口調査局が2003年に行った調査では、41%の男性が、もっと育児に時間を使いたいと回答しました。このように、子育てを担う若い世代を中心に、育児に積極的に参加したいと願う父親が一定の割合を占めていたことも、「両親手当」の導入を後押ししました。

 

社会通念の変化

一方、ドイツでは、「育児は母親の仕事」とみなす旧来的な価値観も根強く、「両親手当」の導入には多くの批判の声も寄せられ、この新しい家族政策をめぐる議論はメディアでも盛んに取り上げられました。この過程で、育児への積極的な参加を希望する新しい価値観を持つ父親の存在が大きくクローズアップされるようになり、徐々に父親の育児参加を肯定的に捉える世論が形成されていったようです。

 

受入体制の確立

ドイツを含む欧州では、通常の労働者は25-30日の有給休暇を持っており、原則として完全取得されます(取得されない場合は管理職が責めを負うため)。また、バカンスなどで1カ月ほど会社を休むことは珍しいことではなく、このため数ヶ月程度であれば育休を比較的取得しやすい状況にあったと考えられます。

 

日本の現状と課題は?

ドイツの状況と比較しながら整理していきたいと思います。

所得保障

日本では、2014年4月に育児休業給付金の支給率が67%に引き上げられました(ただし取得開始から180日目まで、以降は50%)。また、「パパ・ママ育休プラス」のように父親の育休取得に対するインセンティブも用意されています。制度に関しては、ドイツと比較して遜色ない程度に整ってきていると言えるのではないでしょうか。(さすがに北欧と比べると見劣りしますが)

 

育休需要

大手人材会社マイナビが2014年12月に行った調査によると、男子大学生の約4割が「育児休暇を取って積極的に子育てしたい」と回答しました。日本においても若い世代を中心に男性の育児への参加意欲は着実に高まっているものと思われます。

 

社会通念

日本でも、ドイツ同様、「育児は母親の仕事」とみなす価値観は未だに根強く残っています。しかし近年では、産後クライシスがメディアによって大きく取り上げられ、また民間企業のサイボウズがCMでワーキングマザーの問題を提起するなど、これからの家族のあり方に社会の関心が高まりつつあります。このような議論の輪が広がることで、今後、男性の育休取得に注目が集まる可能性は充分にあると思われます。

 

受入体制

日本では、欧州と比べて有給休暇日数が少なく、その取得率も低い傾向にあります。このため、長期休暇を取得する労働者の数も少なく、多くの企業では社員の長期休暇に対応する環境が充分に整っていないのが実情です。これが父親の育休取得を阻む一つの障害となっていると考えられます。

この点については、日本とドイツで状況が大きく異なりますので、企業の理解を得るためにインセンティブの導入なども別途検討する必要があるかもしれません。このあたりはあらためて別のエントリーで検討してみたいと思います。

 

まとめ

ということで、脱・イクメン後進国を実現したドイツの成功事例を参考に、日本における父親の育休取得の現状と課題を整理してみました。制度面に関しては、充分とはいえないまでも少しずつ整いつつあるように思います。今後は、この種の議論がさらに発展し、企業が労働者の長期休暇に堪えうる環境を構築できるかどうかが、日本が脱・イクメン後進国を実現するための大きな鍵を握りそうです。それでは今回はこのあたりで。

(了)

 

※主な参考文献

父親の育休取得を実現しつつあるドイツ〜成果の背景と日本への示唆〜(2008年6月)/みずほリポート

検討される育児休業給付金の拡充〜男性の育児休業の取得は今度こそ拡大するか〜(2013年12月)/みずほインサイト

父親の育児参加を促す新しい家族政策(ドイツ:2014年10月)/労働政策研究・研修機構(JILPT)

Moss, P. 2014. International Review of Leave Policies and Research 2014.

育休を希望する男子学生増加。「復帰」や「出世への影響」への不安視も | 就活スタイル